コラム

インタビュー

専門家に聞く!テレワークに求められるメンタルヘルスケアとは(前編)

宮中大介さん

今回お話をお聞きしたのは、HR・ピープルアナリティクスや心理学・産業保健の知見を活用した組織に対するコンサルティングなど、健康経営や職場のメンタルヘルス対策などを専門領域とする宮中大介先生です。前編・後編に分けてお届けしますが、いずれも専門家ならではの示唆に富んだお話は役立つことばかりです。前編は主にテレワーク(リモートワーク)を実施している企業の現状や課題について、後編はテレワークを推進する際のメンタルヘルス対策について語っていただきます。

社名
株式会社ベターオプションズ
お話を伺った方
宮中大介さん
株式会社ベターオプションズ代表取締役、慶應義塾大学特任助教
行動科学とデータサイエンスを応用したサービス開発を専門領域とする。格付会社にてアナリスト、EAP会社にてサービス開発部門長を経験し独立。東京大学大学院医学系研究科修了(公衆衛生学修士)。大学でポジティブ心理学やメンタルヘルスの研究にも従事している。
URL
https://better-options.jp/

新型コロナウイルス感染症発生前と後のテレワーカーの割合

テレワーク(リモートワーク)下における課題を説明する前に、テレワークを実施している企業の動向を確認しておきましょう。
図1は国土交通省が実施した「令和2年度テレワーク人口実態調査」を基に作成した、テレワーカーの割合を表したものです。新型コロナウイルス感染症が発生する前にテレワークをしていた人は、会社に雇われている雇用型の人よりフリーランスを含む自営型の人のほうが多かったことが分かります。

図1 テレワーカーの割合(2016~2020年度の推移)
参考:「令和2年度テレワーク人口実態調査-調査結果-令和3年3月」(国土交通省)のP11を加工

私が関わっている企業で新型コロナウイルス感染症拡大前にテレワークをしていた人は、育児休暇明けや乳幼児の子育て中、あるいは家庭で親を介護しているなど、例外的な事情の下でテレワークが認められていたというケースが多かったように思います。各部署に1名いるかいないかといった割合でした。ですから、この図で全就業者テレワーカーが2018年で17.4%、2019年が15.4%とあるのは、私としては「意外と多いな」という印象を受けました。
コロナ禍前にすでに1割以上の就業者がテレワークを実施していたわけですが、コロナ禍でその割合が一気に増えました。自営型テレワーカーが減っている理由はまだ明らかになっていませんが、企業のテレワーク率が増えていることは確かです。

地域と企業規模、職種によって異なるテレワークの実施率

雇用型テレワークの実施率を見ると、地域によってもかなり差があります。図2では、一番上にある赤い折れ線が示す首都圏の割合が、18.8%から34.1%に倍増近くなっています。つまり首都圏ではコロナ禍で必要に迫られて、テレワークをしている人が急増したということです。

図2 就業者の属性別テレワーカーの割合(居住地域別)
(※)2019年WEB登録者情報の居住地、2020年WEB調査回答者の居住地
首都圏:東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県/中京圏:愛知県、岐阜県、三重県
近畿圏:京都府、大阪府、兵庫県、奈良県/地方都市圏:上記以外の道県
参考:「令和2年度テレワーク人口実態調査-調査結果-令和3年3月」(国土交通省)のP12を加工

また、テレワークの実施率が首都圏か地方かでかなり差があるということに加えて、図3のグラフを見ると、企業規模によっても異なることが分かります。社員が10~100人未満の中小企業だと、コロナ禍の昨年7月にも実施率が15.2%だったのに対して、10,000人以上の企業規模になると、正社員の半数くらいの人がテレワークをしていたという結果になっています。

図3 企業規模別テレワーク実施率の推移(正社員ベース)
参考:パーソル総合研究所「第五回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」より

地域と企業規模で実施率の違いが検証されていますが、さらに個人特性や職種などを追い、どういった人がテレワークしているかを統計的に分析した結果、2020年から2021年にテレワークを実施している人の多くが、基本的には「若い人で高学歴。東京圏に住んでいて、情報通信や金融保険業など三次産業の大企業に勤務している人」たちでした。
新型コロナ発生以前はどちらかというと例外的であったテレワークの実施率は、新型コロナウイルス感染症対策のために全体として上ったものの、内訳を見るとある意味、実際は限られた人たちが高い比率で実施しているというのが実状でした。
テレワークを実施するには、会社が情報通信機器類を整備することになるため、そういう意味ではどうしても企業規模による差が出てしまうのではないかと考えられます。また大企業が多く立地しているのは首都圏なので、首都圏でテレワーク実施率が高いのは当然と言えば当然です。
情報通信業などはもともとテレワークに向いた職種であり、いまやテレワークは当たり前になっているかもしれませんが、やはり現場に行かないとできない仕事が多いのも事実です。ですから、テレワークが実施可能な限られた職種に従事している人たちの中で、新たな働き方として定着しつつあるというのが現状だろうと思います。

テレワークによって生じた会社サイドの課題

現在テレワークを実施している企業では、コロナ禍が落ち着いた後もこのまま継続するという意向が多いと聞いています。テレワークには「通勤にかけていた時間を有効に使える」「1人で集中して仕事ができる」といったメリットがありますが、一方で会社と社員それぞれに生じた課題も見えてきました。それにはどのようなものがあるか、考察していきたいと思います。

まず会社サイドが直面する課題としては、大きく3つあると考えています。

  • 1.部下の様子を把握しにくい
  • 2.人材育成がしにくい
  • 3.社員に不公平感が生まれやすい

1つ目の部下の様子が把握しにくいことについては、社員が目の前にいませんから、調子がいいのか悪いのか目視できないのは当然なことです。メンタルヘルスの観点からいうと「ラインケア」は非常に重要な取り組みであるにもかかわらず、社員の状態を把握しにくいため、迅速に対応することができなくなるという弊害が生じます。

2つ目の人材育成については、特に入社したての社員への対応に苦慮することになります。オフィスにいれば新入社員も、周りにいる先輩が上司に指示されている内容を聞いているだけで仕事のやり方をつかむことができ、会社の全体像を理解することが可能ですが、テレワークではそういったシーンに出くわすことはありません。上司や先輩の立ち居振る舞いなどに直接触れることで仕事や社外対応術のスキルを磨いていくという、会社にとって重要な人材育成の時期を逸してしまうことになってしまいます。

3つ目は、マネジメントとして非常に難しい課題です。テレワークをしている人としていない人が両方いる企業においては、両者を公平に扱うことが難しいという声をけっこう耳にします。
例えば、出勤しなくてはならない社員がテレワークをしている社員に対して「自宅でラフな格好で過ごせて羨ましい」と言っているのを聞きました。些細なことのようでも、不満が積み重なると不公平感を生むことになります。逆に、テレワークをしている人からは「人事評価で不利になっているのではないか」という不安や危機感を覚えるという訴えが届いています。
このように「テレワークをしている・していない」がもたらす不公平感の払拭が課題になっている企業も多いのではないかと思います。この対応は非常に難しいと思いますが、学術研究でもこういった「不公平感が心身の不調につながる」「業績を悪化させる」という調査結果が出ているので、社員間に不公平感がある状態は放っておかず、意識的に解消する対策を積極的に講じたほうがよいと考えています。

テレワークによって感じる個人のストレスとは

一方、個人が抱えるストレスには、主に

  • 1.仕事とプライベートの切れ目がなくなりがち
  • 2.同僚や上司とのコミュニケーションが希薄になる
  • 3.仕事とプライベートの葛藤が起こる

などが挙げられます。

1つ目のストレスですが、テレワークでは「いきなり家で仕事が始まってしまう」「パソコンを立ち上げればすぐ仕事ができてしまう」という状況のため、仕事とプライベートの切れ目が曖昧になりがちです。仕事とプライベートの切れ目がなくなり、仕事をし続けることで「バーンアウト(燃え尽き症候群)」を引き起こすことが懸念されています。

2つ目はテレワークではやむを得ないと思うのですが、こうしたコミュニケーション不足が孤独感につながり、ストレスの一因になっているケースが多く見受けられます。
また、会社に所属したいという欲求が強い人からすると、テレワークでは自分がどこにも所属していないという不安感を抱くケースがあります。人間には本来的に何かに所属したいという欲求がありますが、テレワークではその欲求が充たされないため、ストレスになっている人もいると聞きました。

3つ目は、仕事とプライベートの切れ目がなくなることから発生する「ワーク・ライフ・コンフリクト」、つまり仕事とプライベートの葛藤、仕事と生活の衝突です。
自宅で仕事をするということは、仕事がプライベートに持ち込まれるということです。自宅に仕事用の個室がないとなると、リモート会議はどこですればいいのでしょうか。テレワークにおいては、オフィスに出勤していた頃には気にする必要のなかった家族との関わりを考慮しなくてはなりません。
子どもが家にいると仕事中に集中できないといったことも、ストレスになることでしょう。こうした仕事とプライベートとのバランスが取れない状況は、悩ましい問題だと思います。
去年の秋に郊外に引っ越したという人がいました。それまでは夫婦共働きで都心に近いマンションに住んでいたのですが、テレワークになると家では仕事がしづらいということで、それぞれの個室を持つために近郊の一戸建てに引っ越したというのです。私の周りにも、テレワークのために自宅の環境を変えたという人が目立つようになりました。
この先も続くことになるワークスタイルでありライフスタイルなので、メンタルヘルスを考慮し、会社としても個人としてもより快適な就業環境を整えること、そして少しでもストレスの要因を解消していくことが大切です。

まとめ

前編:主にテレワーク(リモートワーク)を実施している企業の現状や課題について

新型コロナウイルス感染症発生前と後のテレワーカーの割合

全就業者テレワーカー 2018年:17.4% 2019年:15.4% 2020年:22.5%(コロナ禍による増加)

地域と企業規模、職種によって異なるテレワークの実施率

首都圏でテレワーク実施率が急増、また企業規模が大きいほど増加傾向
テレワーク実施可能な職種で実施され、新たな働き方として定着しつつあるというのが現状だと思われる

テレワークによって生じた会社サイドの課題

  • 1.部下の様子を把握しにくい
  • 2.人材育成がしにくい
  • 3.社員に不公平感が生まれやすい

社員の不調や業績悪化に繋がるため、積極的な対策が必要

テレワークによって感じる個人のストレスとは

  • 1.仕事とプライベートの切れ目がなくなりがち
  • 2.同僚や上司とのコミュニケーションが希薄になる
  • 3.仕事とプライベートの葛藤が起こる

この先も続くワークスタイル・ライフスタイルなので企業個人ともに快適に整える意識が必要

専門家に聞く!テレワークに求められるメンタルヘルスケアとは(後編)はこちら

-Office Darts スタッフ一同より-
テレワーク(リモートワーク)を実施する上で、仕事とプライベートの切り替えが上手くいっていないという方も多いのではないでしょうか。後編では対処法についても解説いただいていますので、どうぞお楽しみに。

※感染症予防の一環で、オンラインによるインタビューをさせていただきました。

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