コラム

インタビュー

専門家に聞く!フリーアドレスのオフィス設計のポイント(後編)

平部豊隆さん

今回お話をうかがったのは、株式会社ヴィス様でシニアコンサルタントとして活躍されている平部 豊隆さんです。同社は累積実数6,500件以上のオフィスデザインをワンストップ手がけてきた気鋭のワークデザインカンパニーです。今回は東京・汐留にある東京オフィスで、フリーアドレスを成功させるオフィスレイアウトのノウハウをお聞きしました。後編は、新しい働き方を提案する同社だからこその、機能的な東京オフィスを紹介していただきながら、実際にフリーアドレスをどのように運用しているかを語っていただきました。オフィスデザインやワークデザインのヒントが散りばめられています。

社名
株式会社ヴィス
お話を伺った方
平部豊隆さん
コンサルティング事業部/シニアコンサルタント
URL
https://designers-office.jp/

株式会社ヴィスは、フィロソフィー(企業理念)である「はたらく人々を幸せに。」のもと、“はたらく”をデザインするワークデザインカンパニーです。コンサルティング、ワークスタイリング、ブランディングを通して継続的に企業価値向上の実現をサポートしています。
実績:デザイナーズオフィス実績 累計6,500件以上(2021年3月末現在)

フリーアドレスとABWの違い

2016年2月に弊社の東京オフィスはここ、NBFコモディオ汐留に移転してきました。部門を分けて、ビルの2階(250坪)にはコンサルティングのチームやプロジェクトを進行する部門、管理系の部門が入り、4階(150坪)はデザイン系の部門が入っています。
東京オフィスでは移転を機にフリーアドレスを導入しました。
今、固定席を設けないワークスタイルをフリーアドレス、あるいはABW(Activity Based Working)という言葉で表します。厳密に言葉の定義をしているわけではないのですが、オフィスデザインの業界で一般的に使っているのはABWです。固定席を持たずに、業務に応じて場所を選んで、いろいろなスタイルで仕事をするという働き方、スペースを自由に使える状況で働くスタイルをABWと言っています。フリーアドレスというのは「どこでも仕事をしていい」という運用面で使う用語という感じでしょうか。

ABWで仕事をするには、単に固定席がないというだけではなく、1人で集中して業務をするためのブースがあったり、WEBミーティング用のシートがあったり、プレゼンテーションの資料をプロジェクトメンバー全員で確認するためのスペースを設けるなど、業務や仕事のスタイルに応じて選んで働ける場所を設置する必要があります。最近ではABWの中に自宅やサテライトオフィスも選択肢に入れるようになりました。ABWはこのように業務に応じて、どこででも働けるスタイルだと考えています。

どこでも仕事ができるように、基本的に全員ノートPCを使用しています。固定電話は、大きいデスクに1台ずつ設置しています。会社貸与のiPhoneがあるので、基本的にそれに個別に連絡が来るようになっています。

株式会社ヴィス 東京オフィス2階 ワークスペース(※写真提供ヴィス様)

東京オフィスのコンセプトは「home」

これから紹介する東京オフィスは、まさにABWを実現するためのオフィスです。まず、私のいる2階スペースですが、執務エリアと多目的使用エリアに分かれています。占有している約240坪のうち多目的使用エリアは約90坪です。
多目的使用エリアは「home」の中の「リビング」というコンセプトで設計されています。「外出しても帰って来たくなる場所」、くつろげる空間を目指しました。そのためオフィス家具ではなく、住宅用のホームファニチャーをメインに構成しています。いろいろなメーカーの背が低い家具を多用し、落ち着ける雰囲気を創出しています。エントランスの一部をショールームとして使用しており、メーカー様の家具を1~2か月くらいの周期で入れ替えて展示しています。

株式会社ヴィス 東京オフィス2階 多目的エリア「サロン」(※写真提供ヴィス様)

弊社は独立しているデザイン事務所なので、使用する家具にしても特定のメーカーのものを使う縛りがありません。それが弊社の強みのひとつといえます。そのためオフィス家具にしてもホームファニチャーにしても、自由に組み合わせて配置しています。

多目的使用エリアには、オープンスペースと会議や接客に利用できる個室を4部屋用意しています。こちらも家具メーカーはそれぞれです。自宅の広い応接間のような家具が置かれた中央部分のオープンスペースは「サロン」と呼ばれていて、社内外の打ち合わせに利用することが多いです。
会議室を最小限にとどめたのには理由があります。会議室を部屋にしてしまうと、使わなければデットスペースになってしまいます。予約しても使わなかったりすればなおのことですが、広い多目的スペースであれば使い方は自由です。現在はコロナ禍で来客は少なくなっていますし、以前はここで行っていた社内のイベントも控えています。個室にしていないので、社員それぞれがどのような使い方をしても問題ないのです。

株式会社ヴィス 東京オフィス2階 「会議室」(※写真提供ヴィス様)

「グループアドレス」という考え方

この多目的使用エリアも前編でお話した6つの機能を1つではありますが、これから執務室を紹介します。
現在はテレワークの併用で出社率40%~80%で、フリーアドレスを導入しています。フリーアドレスの中で、私たちが採用しているのは「グループアドレス」という考え方です。どの席に座ってもいいというのがフリーアドレスだとすると、ある程度チーム単位で座席をまとめるというスタイルがグループアドレスです。それを指定している会社さんは割とあります。
完全なフリーアドレスにするかグループアドレスにするかは、それぞれの業務内容に即して判断すればよいでしょう。個人裁量が多いとか、個人のみで簡潔する仕事が多い場合は基本的にフリーアドレスにしてしまってもいいと思います。また出社率が非常に低いとか、あまりオフィスを使わずに仕事ができる営業の方が多い会社さんの場合も、フリーアドレスにするケースが多いです。

私たちのようにオフィスのデザインに携わっていると、プロジェクトベース、あるいはチーム単位で取り組む仕事が多いため、チーム単位でまとまっているほうがコミュニケーションも取りやすく、圧倒的に仕事も進めやすい。このようにプロジェクト単位の仕事が多い会社さんはグループアドレスを採用しているというケースが多くあります。
さらに弊社には、もう1つグループアドレスを採用する理由があります。弊社では毎年10名から20名程度新卒を採用しています。全社員の1割近くが新卒になるので、若手の人材育成のためには、完全なフリーアドレスよりチームのメンバーの目が行き届くグループアドレスのほうが、双方にとってよいと考えています。そういったメリットを考慮し、弊社ではグループアドレスを採用しています。

株式会社ヴィス 東京オフィス2階 ワークスペース(※写真提供ヴィス様)

オフィスの役割を最大化するために

グループで「だいたいこの辺りに座る」ということを決めて座っているのですが、ほかの部門ともコミュニケーションが取りやすいように、グループごとの「この辺り」を月に1回は移動するルールにしています。
また、グループアドレスにしても運用していくうちに、どうしても人気の席、人気のスペースができることがわかりました。不公平感を解消するために、同じ席の使用時間に制限を設ける予定です。
時間制限のほかに人気席を公平に利用するためのツールとして、「Office DARTS」を採用するのも手だと思います。チーム席の決定やテレワーク対応もできるので、グループアドレスにも有効なのではないでしょうか。

よいものは取り入れ、発生した課題にはすぐに対応することは大切です。実は今年の5月に大きな改装を行いました
以前は大きな机の島が現在の2倍くらいの大きさで設置されていました。机が整然と並ぶ島型のレイアウトで、フリーアドレスを運用していたのです。
コロナ禍で出社率が減ったため、今年の春、オフィスに来た時にはどのような業務がより求められるかということを実証してみようということになりました。大きな島型に机が並んでいる時は、動線がほぼ一方向に規定されるため、メイン動線は決まってしまいます。チーム内だけのやり取りで完結するならいいのですが、他の島(チーム)に行くには遠回りが必要になるなど、他のチームとのコミュニケーションが取りにくかったり、他部門と交わりにくくなっているということが分かりました。

テレワークが普及したなか、オフィスにおける業務の目的のひとつは、チームコミュニケーションの補強や他部門との交流の活性であるはずなのに、机の配置によってそれが妨げられるのでは、付帯的な成果は望めません。そこで、チームメンバーのみならず他部門にも声がかけやすくなるように大きな机の島を分割し、動線が交わるレイアウトに変更したのです。複数の小さな島があるレイアウトは、社員にとても好評です。
弊社ではキャスター付きの家具を多用しているので、状況に応じて移動や変更が可能です。これが可変性を持たせたオフィス、「アジャイルオフィス」ということになります。レイアウトが柔軟に変更できる家具を選ぶことも、フリーアドレス運用のポイントだといえます。

株式会社ヴィス 東京オフィス2階 ワークスペース(※写真提供ヴィス様)

そのほか、オンライン対応が増えてきたので、すでに使用している会社さんもあるかと思いますが、キューブタイプのオンライン用のブース(1人用と4人用)を設置しています。価格的には高額ですが、防音性が高く、防災上の機能も付与されているので、設置するだけですぐに使用可能です。オフィスビルは部屋を作るとなると消防法や建築基準法に基づいて、火災報知器やスプリンクラー設置義務があります。このキューブタイプのブースなら、手続きを踏めば法的にも問題ありません。レイアウトを変更する際、移動もできますし、アジャイルオフィスにはお勧めです。

弊社のホームページにはこの東京オフィスを通して、デザイナーズオフィスがもたらす効果を測定し、掲載しています(https://designers-office.jp/)。弊社の強みは、どのようなオフィスが適正かという要件定義から実際のデザイン、施工まで一気通貫で行えることです。実験的な試みも自社で行うことができ、皆さんが参考にできる発信も数多くしていますし、オフィスデザインだけでなく、コワーキングやシェアオフィスのサービスや働き方を可視化するサーベイの開発など、ワークデザインにも注力しているので、ぜひ参考にしてください。

まとめ

後編:新しい働き方を提案する株式会社ヴィスの機能的な東京オフィス

フリーアドレスとABWの違い

ABW(Activity Based Working)=固定席を持たず、業務に応じ好きな場所・スタイルで仕事をする、スペースを自由に使う働き方
フリーアドレス=「どこでも仕事をしていい」という運用面で使う用語として使い分けている。株式会社ヴィスでは、全員ノートPCを使用・固定電話は大きいデスクに1台づつ・個人は会社貸与のiPhoneという体制でフリーアドレスを実施している。

東京オフィスのコンセプトは「home」

東京オフィスはABWを実現するためのオフィス。「執務エリア」と、オープンスペースと個室4部屋の「多目的使用エリア」がある。後者のコンセプトはくつろげる「リビング」。家具にもこだわっている。会議室数が最小限なのは不使用時にデッドスペース化しないため。

「グループアドレス」という考え方

プロジェクト・チーム単位で仕事に取り組むことが多く、メンバーがまとまっている方が業務上都合がよいこと、新入社員に目が届きやすく人材育成にメリットがあることから、グループアドレスを採用している。

オフィスの役割を最大化するために

グループごとに定期的に席を移動するルールを設け、他の部門とコミュニケーションを取れるよう、全員が平等に座席を使えるようにしている。「アジャイルオフィス」であるよう、レイアウトを変更しやすい家具を活用。オンライン対応のためのキューブタイプのブースも完備。
デザイナーズオフィスの効果・実例は株式会社ヴィスWebサイトにて。

専門家に聞く!フリーアドレスのオフィス設計のポイント(前編)はこちら

-Office Darts スタッフ一同より-
皆さん、「専門家に聞く!フリーアドレスの設計のポイント」はいかがでしたでしょうか。フリーアドレスのコミュニケーションにお悩みの方は、ぜひ「グループアドレス」を試してみていただきたいです。オフィスのフリーアドレス化をご検討されている方は、ぜひ一度ヴィス様にお問い合わせしてみてはいかがでしょうか。
平部様、ご協力ありがとうございました!

※感染症予防の一環で、インタビュー時はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しております。

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