コラム

インタビュー

専門家に聞く!フリーアドレスを成功させるポイント(前編)

成田麻里子さん

今回お話をうかがったのは、コクヨ株式会社様でワークスタイルコンサルタントとして活躍されている成田麻里子さんです。同社は2021年2月、東京・JR品川駅港南口にある2棟の自社ビルをリノベーションし、“創造性を加速する場”として、品川ライブオフィス「THE CAMPUS」を起動させました。そんな新しいオフィスで、フリーアドレスを成功させるポイントをお聞きしました。前半・後半に分けてお届けしますが、いずれも知っておきたい運用のヒントが満載です。前編はフリーアドレスのメリットと導入時の課題、そしてその解決策を中心に語っていただきました。

社名
コクヨ株式会社
お話を伺った方
成田麻里子さん
ファニチャー事業本部/スペースソリューション本部/ワークスタイルイノベーション部/ワークスタイルコンサルタント
コクヨ入社後、10年間にわたりオフィスデザインやワークスタイル研究、新規事業企画に携わる。現在は企業向けサービス[コクヨの研修]スキルパークにおいて、人材育成、働き方改革に関わる研修企画および講師を担当。
URL
https://www.kokuyo.co.jp/

フリーアドレスのメリット

まず、フリーアドレスのメリットについて、経営者の視点と社員の視点に分けてお話します。共通するところもありますが、経営者の視点では大きく次の3つが挙げられます。

  • 1.生産性の向上
  • 2.コストの再配分
  • 3.人的資源の確保

1つ目の生産性の向上について、フリーアドレス導入により自宅やコワーキングスペースなどいろいろな拠点を利用することで移動時間が減り、またその分仕事に集中できるため、生産性向上が期待できます。コロナ禍でテレワークが増えていますが、オフィスに出勤しなくても業務を継続できるため、BCP対策に寄与するともいえるでしょう。

2つ目のコストの再分配については、保有するオフィス面積の適正化という側面を考えるとわかりやすいでしょう。コロナ禍で以前に比べて出社率が下がっていることをふまえて、オフィス面積を縮小するという考え方もあります。一方で、オフィス面積は100%活かして、これまで固定席として使っていたスペースを、新しい働き方を見据えた付加価値のあるスペースに転換できるわけですから、スペースの再分配ととらえることができます。フリーアドレスだと共用するスペースが増えるので、人数の増減や異動に対応しやすくなるという意味でも、コストの再分配が可能になるというメリットがあげられます。

3つ目の人的資源の確保についてです。オフィスの中での柔軟な働き方ができることは、企業としての魅力のひとつです。社員のライフスタイルが変化するなかでも継続して働ける、また入社を考えている人たちに向けたアピールにもなり、人材の確保につながることがメリットとして考えられます。

次に、社員にとってのメリットをお話します。こちらも大きく分けて3つです。

  • 1.自律的な行動が身につく
  • 2.生産性、業務効率の向上
  • 3.ワークライフバランス

自律的な行動、つまり「自分で決めた働き方で仕事をコントロールできるようになる」と考えることができます。いいか悪いかは別として、固定席の場合は、毎朝出勤して何となく昨日の続きから始めても、それなりに仕事はスタートします。それがフリーアドレスになると、仕事を始める前にまず段取りが必要です。自分のロッカーに行き、パソコンと書類を出します。そこから例えば「今日は集中して提案書を作成したいから集中スペースに行こう」などと、日々時間単位で自分の行動を組み立てていくわけです。初めは小さい変化でしかないかもしれませんが、このような小さな積み重ねを続けることが自律的な行動につながっていきます。
また、席が決まっていないので、上司がいつでも目の前にいるという状態ではなくなります。何かあった時にすぐに相談することができないこともあります。与えられた時間の中で、いかに自分で考え、業務を遂行していくかといった責任感や仕事の完遂意欲が芽生えます。これも自律的な行動力を養うことにつながるものと思います。

2つ目の生産性や業務効率の向上ですが、これは経営者視点の「コストの再分配」の部分と紐づきます。固定席を削減することでブレインストーミングスペースや調べ物のための資料ペース、隔絶された集中席など、いろいろなスペースが生まれます。それらのスペースを、自分がその日にするべき仕事の目的に合わせて、場所を選ぶことができます。快適に働ける環境が整えば、当然生産性や業務効率の向上にもつながります。

3つ目のワークライフバランスについては、ABW(※)ほど大きなメリットは得られないかもしれませんが、前述した業務の効率化によって、自分のために使える時間が増えることは確かでしょう。
※ABW(Activity Based Working)とは「時間」と「場所」を自由に選択できる働き方のこと。

導入時のさまざまな課題にも解決策はある

フリーアドレスを導入する際、よく耳にするのが「フリーアドレスによって自分の席がなくなってしまう」という不安感です。長く固定席で仕事をしてきた方の中には「自分が安心できる場所がなくなってしまう」という気持ちになる方が一定数いらっしゃいます。まず皆さんにご理解いただきたいことは「場所を共用で利用する」という考え方です。今までもある会議室や打ち合わせスペース、食堂などと同様で、共有で使うスペースが広がると考えていただくとよいでしょう。

そうは言っても、いざ導入しようとする時には、様々な不安や課題がでてくるものです。では、導入時の課題として解消しておきたい、社員が抱える具体的な不安には、どのようなものがあるでしょうか。大きく次の4つになります。

  • 1.部下とのコミュニケーションが減った
  • 2.誰がどこにいるかわからない
  • 3.荷物や資料が置きっぱなし
  • 4.席の固定化

これらの課題を解決する施策をお話していきましょう。

1つ目の上司、部下とのコミュニケーション、あるいはグループ内でのコミュニケーションが減ってしまったという時には、「コミュニケーションのとり方を今までの固定席と同じように考えていてはだめですよ」とお伝えしています。
一般的な仕事の流れとしては、部下は上司からの指示に対して報告、連絡、相談(報・連・相)を繰り返した後に最終報告をするということが多いでしょう。そのなかでの上司の方の意識として、当然のように報・連・相は部下から行うべきものと考えている方は多いのではないでしょうか。けれどフリーアドレス導入後は、自分から部下に働きかけるようにしないと仕事はなかなかうまく回っていきません。その意識変革がとても大事です。部下も同じで、固定席だったら上司が近くにいて、何となく仕事の様子を察してくれていたかもしれませんが、フリーアドレスではこれまで以上に報・連・相を頻繁にする必要があります。部下も同じで、固定席だったら上司が近くにいて、何となく仕事の様子を察してくれていたかもしれませんが、フリーアドレスではこれまで以上に報・連・相を頻繁にする必要があります。

上下関係はもちろんありますが、コミュニケーションは双方向なので、自分から相手に働きかけてしっかり連携を取りながら、仕事の成果を出していくということをお互いが心がけない限り、なかなかうまくいきません。フリーアドレスにすればコミュニケーションが活性化しそうだという声も時おりききますが、フリーアドレスにしたからといって、コミュニケーションがうまれるわけではありません。自発的に話しかけて初めてコミュニケーションが発生するのです。

コミュニケーションの頻度を保つ方法の一例を紹介しましょう。在宅勤務と会社でフリーアドレスを併用している企業が実践しているのが、例えば1週間に1回、曜日を決めてグループで一緒に仕事をする時間を設けるという方法です。意識的にこうした取り組みをすることで、コミュニケーション不足を補うことができます。

それぞれのスケジュールを確認し合うことが大切

2つ目の、どこにいるかわからないということへの不安に関しては、「Office DARTS」システムなどを使えば解消されるのでしょうが、基本的な解決方法としてお伝えしているのが「個人スケジュールをきちんとメンテナンスしておきましょう」ということです。これはベースとしてぜひともやっておきたいことです。入力の仕方は企業によっても、また個人によってもまちまちだと思います。自分たちの部署でどういう入れ方をするかをすり合わせて、使いやすいものにしていくとよいでしょう。例えば、私たちは「外出」「移動」「来客」「会議」といったインデックスを決めて、詳細を書き込んでおきます。そのスケジュールを見て、他の人が会議などの依頼をするので、移動時間もきっちり記入しておきます。

在宅勤務も増えているので、どこで仕事をしているかをより綿密に記入しておくことが大事です。また「〇〇の提案書作成」といった作業の時間も、きちんと記入しておいたほうが私はよいと思っています。作業のスケジュールを入れることにより、8時間の勤務時間の中で、何をどの程度の時間で進めるかという計画にもつながっていきますし、見えない作業をそのスケジュール表により、部署のメンバー同士で確認することができます。
上司の方は、自分たちのグループの中でどのように記入したら、お互いにストレスなく働けるかという視点で考えていただくとよいでしょう。お互いの行動が見えないからこそ、こまめな報告が必要なのです。

今は多くの企業でグループチャットを利用しているのではないでしょうか。企業によってMicrosoft Teamsを使われていたり、当社ではG Suiteを使っていますが、個人対個人のチャットやグループチャットを上手に利用するとよいと思います。スケジュールを完璧にメンテナンスしていたとしても、急ぎで相談したいことが出てきた時などチャットを使えば、すぐに確認することが可能です。
チャットはタイムリーな双方向コミュニケーションですが、それだけに文章を短くする傾向があります。そこには世代間ギャップがあり、若い方は慣れていて短い文章や「いいね」だけでも通じても、ベテランクラスの上司の方だと通じないことがあります。人間関係が出来上がっていない間柄での短い言葉のやり取りは、時に誤解を招くおそれがあるため注意が必要です。

荷物や資料の扱い方を見直そう

3つ目の荷物や資料の置きっぱなしについては、何より共有で使うという意識をもつことが大切なのですが、例えば2時間以上離席する時にはクリアデスクにするなど、きちんとルールを決めている企業が多いです。明らかに長時間会議が続き、席を使わないという場合には、使わない書類はロッカーに片付けてデスクをきれいにし、必要な書類だけ持って会議室に移動する、というように決めておかないと、なかなかうまくいきません。
企業によっては大きな荷物の一時保管をしたり、仮置き場所をタイムロッカーのような形にするところもあれば、収納庫の足元の棚を大きな荷物を入れる場所に指定するなど、それぞれに工夫しています。

4つ目の席の固定化についてですが、書類が多いとどうしても席の固定化につながるので、身動きしやすくするためには、ペーパーレス化を推進されたほうがいいでしょう。
今ある書類をすべてデータ化するとなると、時間もかかりデータサーバーを圧迫してしまいます。まずは要らない資料は捨てて必要なものだけデータ化、あるいはファイリングしておくという考え方も必要ですし、こまめに収納庫の整理整頓をすることが非常に重要です。
さきほど「スケジュールを書き込もう」という話をしましたが、書類を整理整頓する時間もスケジュールに書き込んでおくことをお薦めします。私は、今は固定の個人ロッカーはもっていないのですが、以前は毎週金曜日の15分間は書類の整理時間に充てていました。必要なものはスキャンして保管し、不要なものは廃棄する時間をスケジュールに組み込んでいました。記憶が定かなうちに資料の仕分けをしておいたほうが仕事も効率的に進みます。

後編では、これらの課題と対策を踏まえて、フリーアドレスの成功と失敗の分かれ道はどこにあるのかをお話します。

専門家に聞く!フリーアドレスを成功させるポイント(後編)はこちら

-Office Darts スタッフ一同より-
皆さん、いかがでしたでしょうか。当社サイオステクノロジーでは、フリーアドレス座席管理(ホテリング)システム「オフィスダーツ」の販売・開発を扱っているため、ある程度フリーアドレスについて理解しているつもりでしたが、とても参考になることばかりでした!具体的な解決法はオフィス環境作りのプロならではのアドバイスですね!
後編もどうぞお楽しみに。

※インタビュー時はマスクを着用し、ソーシャルディスタンスを確保しております。

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